風邪の治療

かぜとは一般に、ウイルスに感染したときの症状をいいます

 ウイルスがのどや鼻の粘膜につくと、体の免疫(白血球)は 異物(ウイルス)の進入を感知し戦いを始めます。この時点で戦いに勝てればかぜという症状は現れません。

 しかし体が疲れているときや冷えているときは、免疫を運ぶ血液の流れが遅くなるため戦いにいどむ免疫の数が少ししか流れてきません。

 その結果、戦いに負けてウイルスはからだ全体に増殖して発熱・鼻水・せきといった症状になるのです。

 “かぜにかかったかなー”と思っても、
 A.「風呂に入れば治ってしまう」タイプと
 B.「風呂には入ると悪化してしまう」タイプがあります。

 この違いは、Bのタイプは免疫を作り出す力と血流が悪いということにあります。

 初期症状の発熱・悪寒 は、ウイルスと戦うための武器(抗体)を製造しているあらわれです。

 温度を上げなければ武器(抗体)ができないからです。

 そこで体は武器製造にエネルギーを集中して、ほかを休ませます。食欲が無くなるのも消化器官を休めるためです。

 このときに解熱剤やかぜ薬を使うと、武器製造の熱を落としてしまい邪魔してしまうことになります。さらに、抗生物質などの使用はやられまいとするウイルスを変体(形を変える)させてしまうので、Bのタイプの人はよけい長びくかぜとなってしまうのです。

●元来、発熱は生体の防御反応であって、アスピリン等の解熱鎮痛剤の投与は免疫反応を阻害する。
●止めてよいせきは、たんを伴わない「からせき」であり、一般には、鎮咳剤を用いて止めてはいけないせきの方が多いことを留意しておくべきである。

「病気と薬剤」日本薬剤師会編集 薬事日報社より


免疫力を高めるとは

 例えば近年、O-157(病原性大腸菌)という恐ろしい病気が流行っていることを思い出して下さい。

 同じ感染でも軽い下痢でおさまる人と、死亡してしまう人がいます。この違いは何でしょう?・・・

 これが免疫力の高さです。

 同じように、かぜのウイルスは基本的に人間の体が治すものです。悪化したり長引くのはただ免疫力が低いのです。

 例えば体が元気で免疫力が高いときは、かぜの人を介護しても感染しないように、免疫力さえ高めればかぜは数日で治すことができるのです。


ウイルス風邪-免疫力でじっくり治す

「風邪の季節」になりました。十分な栄養を取るとか、よく眠って体力を養うとか、予防に気を配っている人も多いでしょう。

でも、運悪く風邪をひいたら、どうしますか?

ひと口に風邪といっても症状は様々ですが、その九割以上はウイルスが原因です。

なるべく早く元気になるために、上手な風邪の治し方を考えておいた方がいい ようです。

(村山 知博)


 薬局で市販されている「総合感冒薬」は、熱を下げる解熱剤や頭痛を和らげる鎮痛剤、くしゃみや鼻水を抑える抗ヒスタミン剤などが配合されているのが一般的だ。

 医者にかかると、抗生物質を処方される場合も多いが、ウイルス性の風邪に抗生物質を使うことには慎重な見方がある。

 風邪に限らず、ウイルス疾患に抗生物質が効くことはまずないからで、東京医科歯科大の山本直樹教授(ウイルス学)は「喉や鼻の粘膜が風邪のウイルスに荒らされ、そこへ細菌が感熱して合併症が超きることがある。

 その時には抗生物質に意味があります。でも、合併症の恐れがない患者へ抗生物質を処方するのはおかしな気がします」と話す。

 抗生物質が腸内にすむ細菌(常在菌)のバランスを崩すと、おとなしくしていた悪玉常在菌が悪さを始めたり、すきを突いてよそ者の悪玉薗が侵入してきたりする。

 その結果、下痢になることがある。

 幾種類もの「風邪薬」を飲んでいるうちに下痢になって「今年の風邪は腹にくる」と思ったのが、実は抗生物質の副作用だったとい う例もなくはない。

 抗生物質は、急性のアレルギーを起こしたり耐性薗をつくったりする深刻な問題もはらんでいる。

解熱剤の使用は逆効果  手を洗い接触感染防止

敵に塩を送る

 ウイルス性の風邪に特効薬がなくても、私たちの体に備わっている免疫が活躍してくれる。

 喉や鼻で風邪のウイルスが増えて粘膜細胞を壊し始めると様々な免疫細胞が活性化してウイルスを排除しようとする。

 この時、免疫細胞の働きを補助する各種の生理活性物質が体内に現れる。

 「その一つ、インターロイキン1が脳の発熱中枢に作用して次第に体温を上げていきます。体温が高まると生理活性物質や免疫細胞の働きが活発になり、ウイルスを排除しやすくなるのです」と順天堂大医学部の奥村康教授(免疫学)は説明する。

 解熱剤でむやみに熱を下げるのは、敵であるウイルスに塩を送ることになりかねない。

 熱を下げるか否かは、体温計の数字ではなく、その時の症状や体力を考えて判断するのがいいようだ。

 個人差があり一概には言えないが、例えは、39度以下でも苦痛がひどけれは下げた方がいいし、38度を超えても苦しくないなら無理に下げることはないといえる。

 健康な大人がウイルス性の風邪にかかった場合、大抵の人は放っておいても一週間ほどで自然に治る。

インフルエンザは症状が激しいので無理ですが、普通の風邪なら仕事をするのは可能でしょう。ただ、早めに帰宅し、消化にいい食べ物を食べ、ゆっくり眠ってください」

 風邪に詳しい日本鋼管病院の菅谷憲夫・小児科長の助言だ。

心がけひとつ

 隣の人の咳やくしゃみを気にする人もいる。

 しかし、風邪をひいている人と健康な人を長時間同じ部屋で過ごさせても、風邪はうつりにくかったという実験結果があるそうだ。

 咳やくしゃみが直接顔にかからない限り、あまり気にすることはない。

 菅谷さんは「インフルエンザのウイルスは飛沫感染するので、無理な外出が病気を広めることになります。

 でも、普通の風邪のウ イルスは主に接触感染するので、ちょっとした心がけで予防できるのです」と神経質になるのを戒める。

 例えば、風邪をひいている人が鼻の周りを触った手で電車の釣り革につかまったり、公衆電話を使ったりする。

 それらに触れた手で自分の鼻や目をこすって感染するのが接触感染。

「無意識に鼻や目を触ることはだれもがします。こまめに手を洗って、他人にうつしたりうつされたりする恐れを減らしましょう」と菅谷さんは話している。

1997年12月4日 朝日新聞記載

抗生物質と風邪

 各種の抗生物質は、細菌の細胞壁を壊したりたんばく質の合成を邪魔したりする。

 ところが、ウイルスは人間の細胞内に潜り込むので薬の作用が及びにくい。ウイルス疾患を抗接物質で治せないのはこのためだ。

 医師がウイルス性の風邪にも抗生物質を処方するのは、「細菌による合併症の予防や治療に投立つ」と考えるからだが、米国では、細菌合併症の予肪に抗生物質の効果は期待できないとの声がある。

 日本医師会も「薬の正しい使い方」で、常在菌への悪影響を避けるため、予防投与は原則的に控えるよう指摘している。

1997年12月4日 朝日新聞記載

インフルエンザ

 広い意味で風邪症候群に含まれるが、「一般の風邪とは区別して考えた方がいい」という専門家もいる。感染力と破壊力がけた外れに強いからだ。

 インフルエンザウイルスの感染力は、今世紀に少なくとも3回の世界的な大流行(スペイン風邪、アジア風邪、香港風邪)を引き起こしたことが示している。症状も、高熱や虚脱感、全身の関節痛など一般の風邪に比べ格段に重い。

1997年12月4日 朝日新聞記載